「マネジメント会計」という用語を商標登録した、スゴ腕弁理士事務所の反論戦略とは?


公認会計士の佐藤等さんと弁理士の熊野彩さん

商標登録証を手に、依頼者の佐藤等さん(右)と弁理士の熊野彩さん(左)

佐藤 「HK・イノベーション・プラザ」に入居する「あさかぜ特許商標事務所」の札幌支所長であり弁理士の熊野彩さんにお願いして、今回、「マネジメント会計」という用語を商標登録することができました。「マネジメント」と「会計」という、どちらも普通に使われることばの組み合わせだったので、登録はむずかしいかなと思っていました。しかし、熊野さんたちががんばってくれたおかげで、なんとか登録できることになりました。

熊野 2019年の7月に出願して、2020年の8月25日に登録。商標登録まで1年ほどの期間を要しました。当初から予想されていましたが、途中、「拒絶」されてしまいました。拒絶というのは、出願した商標は登録できませんということ。理由は審査官がそのことばは独占させるに値しないということでした。そこで、わたしたちは拒絶理由に反論する「意見書」という書類を練りに練って提出。その後、無事登録になりました。

佐藤 拒絶に関してどういうことかというと、われわれ会計の世界では、「マネジメント・アカウティング」という元々の分野があって、これを日本語に訳すと「管理会計」ということばになっています。特許庁では、マネジメント=管理、という認識になり、「管理会計ということばは『一般用語』なので登録は認められません」という理由でしたね。

熊野 そこで、意見書では「マネジメント会計は単に管理会計のことではない」という説明と論旨にしました。商標って、どういう分野のサービスに該当するかが大切なんです。今回の場合だと完全にビジネス分野です。対象の需要者がどう思うかが判断基準になります。そこで、会計分野だけではなくビジネスにかかわる分野を細かく調査して、マネジメント=管理ではないこと、マネジメント会計=管理会計ではないことを多数の証拠を集めて証明、強調することにしました。徹底的に調べて、添付の証拠は27件にもなりました。

佐藤 なんでこういうことになっているかというと、会計の方がマネジメントより歴史が長いからです。会計は15世紀あたりから存在していました。一方で「マネジメント」は、どう古く見ても1850年代ごろに誕生した概念。ドラッカーが著書『現代の経営』で「マネジメント」を世に発表したのが1954年のことで、彼が発明者と呼ばれるようになりました。つまり現代的な意味のマネジメントが誕生したのです。したがって「マネジメント」ということばが流通し出したのはごく最近のことなのです。このような事情からこれまでは会計という分野の中からマネジメントに役立つ部分を取り出して「マネジメント・アカウティング」と呼ばれ、日本では「管理会計」と呼ばれ広がっていったという経緯があるのです。つまり「管理会計」は会計由来の概念で、マネジメントの道具なのですが、マネジメント由来の概念ではないのです。

熊野 そこで、「マネジメント会計」ということばは、「管理会計」とは異なる造語なんだということを主張の柱のひとつにしました。

佐藤 その後、一旦、反論の戦略練り直しをしたのですね。

熊野 そうなんです。大幅に変更しました。当初は佐藤さんの「マネジメント会計」にかける想いを意見書に表現していませんでした。ところが、所長弁理士に相談したところ、「その想いこそ、アピールすべき点ではないか」となりました。主張のポイントを再度練り直して、「なぜこのことばが新しい概念で、今の時代、どうして必要なのか」といった佐藤さんの想いや大義の部分をふんだんに盛り込んだ意見書にしたのです。わたしは、改めて佐藤さんの考える「マネジメント会計」についてレクチャーしてもらいました。「あの本を読んでとか、この資料を読み込んで」とか資料をたくさんおしえてもらいました。佐藤さんが書いた『“Management accounting”の迷走に関する要因の考察-ドラッカーのマネジメントからのアプローチ』という、とっても難解な論文を何度も読み込んだほどです(笑)。すると、佐藤さんが提唱する「マネジメント会計」という概念は、まったく新しいものなんだとすとんと理解できました。従来の管理会計とは異なるものだと。そこで、「マネジメント会計」ということばは、佐藤さんが提唱する「マネジメントに役に立つマネジメントのための会計」という新しい分野を指す造語なんだということを主張の柱のひとつとして加えました。

熊野 意見書で反論する機会は1回のみ。失敗して「拒絶査定」ということになると、それに対する審判を請求するという段階に入っていきます。なので、ここは所長も交えて慎重に進めました。

佐藤 拒絶されて、途中であきらめる人もいるのですか?

熊野 はい。造語であっても商品やサービスの内容を説明しただけのようなことばを独占させることはできない、という拒絶理由は実はよくあります。しかし、ご本人である出願人が「どうしても!」という意向であれば、弁理士側としては、もう必死にサポートします。一般的にざっくり言って、拒絶されて意見書を書いて反論するケースは5~7割くらいでしょうか。そのうち、少なくとも半分は反論が通っている印象です。一方で、独占させられないという趣旨の拒絶理由が届き、「ここであきらめます」ということもあります。先に進まないという判断です。その場合も「だれにも独占はできない。従って、自分も継続して使える」ということを確認できるので、申請すること自体のメリットはあります。

 

 

佐藤 わたしは「マネジメント会計」と題して、10年くらい前から講座などを通じてアウトプットしてきました。従来の会計は¥(円)マークオンリーの世界です。すると、会計人としては、顧問先の企業に対応できることは限られてしまうのです。例えばですが、組織の中で「学習している総時間」とかあって、これによって組織の力は大きく異なります。¥(円)以外の数字にも大切なものはたくさんある、ということはドラッカーも言っています。わたしは30年以上にわたって公認会計士として企業の会計財務関連業務に携わってきました。既存の会計手法だけでは顧客に対して本当の価値提供ができないと思うようになりました。古典的な会計の手法ではない、新たな概念として「マネジメント会計」を普及させたいと考えています。なので「これがマネジメント会計だ」という本を書かなくてはならないのですね(笑)。管理会計とはちがうんだということを明確にしたい。会計はマネジメントの道具でしかないということを、広く社会や業界に浸透させていきたいと思っています。

熊野 すばらしい志だと思います。弁理士的には権利範囲の指定が重要でした。経営の分析とか診断とか指導といった分野に関して、この「マネジメント会計」を商標として使えるのは今後、佐藤さんだけになります。商標登録によって権利が確定し、日本国内では独占的な状態になりました。なので、今後、佐藤さんの活動を誰かから侵害されるといったリスクはなくなります。安心して広めていけます。商標の活かし方としては、登録商標マークである表記をすることです。いわゆる「まるRマーク」というものを添えてくださいね。

 

 

佐藤 Rマークがつけられることで、職業会計人とか見る人が見るとびっくりするかもしれませんね。わたしは、この商標を独占的に使用するというよりも60歳から職業会計人に対して、この「マネジメント会計🄬」を知ってもらい、一緒に普及させていく活動を本格化させようと思っています。もう、1年を切りました(笑)。今回の申請は、その活動のひとつのパーツ。さまざまな準備の中の重要な節目でした。

熊野 成功してよかったです。1回登録すれば10年間は有効です。その後は、更新していけばいいだけですから。

佐藤 今回、わたしのケース。費用としては出願から登録まで指定する区分が1つだけなので、約16万円。拒絶に対する反論としての意見書作成は6万円ほどでした。なので総額20万円少しの費用で10年間の安心が手に入りました。年間にすると約2万円。決して高くはない金額かと思っています。ありがとうございました。

(本文敬称略)

 

あさかぜ特許商標事務所


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