会社存続のリスクにどう備えるか〜京都アニメーション事件を通じて、企業が取れるリスク管理とは


ケイアンドエイ 後藤直哉さん

ある日突然、見ず知らずの人が会社に入ってきて、灯油をまいて火をつける。社員35人が一瞬で犠牲になり、4階建の社屋は内部が全焼。パソコンなどに入っていたデータや作品も失う。京都アニメーションのスタジオ(京都市)で起きた凄惨な放火殺人事件。もし、わたしたちの会社で起きたら…。企業として、どのような備え方があるのか。損害保険の専門家に聞いた。

 

 

総合保険代理店(有)ケイアンドエイ

専務取締役 後藤直哉さん

 

 

労災認定で遺族年金が支払われる

今回のような京都アニメーションさんのケースは、労災認定になると思われます。政府の労災。政府の労災は一時金としてもらうことはありません。残された遺族に対して「年金」というかたちで分割して支払われることになると思われます。会社側に対しては安全管理を問われることにもなろうかと思います。かなりの部分、考慮されると推測されますが、ゼロではないと思います。

通常のケースとして、仕事中にケガをして亡くなった場合。「ヘルメットを被りなさいといった指示をしていたのか」ということが会社側に問われます。こうした場合は、死亡保険金を一時払いできるタイプの保険があります。建設業や製造業などリスクが高い会社は、上乗せ労災をかけているケースが多いです。保険の金額は企業の売上高によります。

 

訴訟大国ニッポンに

最近増えているケースとして、遺族が会社側を訴えてくる場合があります。その際の損害賠償金や訴訟・弁護士費用などを補償する「使用者賠償責任補償特約」というものをつけることができ、これが増えてきています。日本も裁判をするという訴訟大国になってきたことによります。その時、人の命の値段が注目されます。これは60歳まで働けたとした場合を計算して算出します。なので、若ければ若い人ほど多額になります。

額が小さいケースは一時払いになります。そういうケースは60歳とか65歳とう人の場合。でもほとんどの場合はそうではなく、年金払いになります。遺族年金というかたちです。

 

法律が変わり命の値段が上がる

2020年の春、民法が大改正になります。事件や事故によって発生する損害賠償請求権に関するルールが変わります。ポイントは2つ。権利を行使することができる期間に関する見直しと、中間利息控除および遅延損害金に関する見直しです。特に2つ目は注意が必要です。法定利率が年5%から3%に引き下げられます。これは、ちょっとわかりにくいのですが、端的にいうと、命の値段があがるのです。

例えば、30年間働いた人がいるとします。8千万円稼げたという人が亡くなった場合。この30年間で運用ができたのではないか、という考え方になってきたのです。運用できた5%という利率を控除しますよと。仮に8千万円という数字が出ても実際には受け取りは6.5千万円とかになってしまうのです。この法廷金利5%が3%になるということは、控除する金額が少なくなるということ。命の値段が上がってくる時代、企業はこのことにも配慮しておく必要があると思うのです。

 

会社運営のリクスとは

会社を運営している時にリスクを考えておくべきこと。対人・対物への賠償。人や車。従業員のケガや命を守ること。会社の建物。火災保険の守備範囲です。労災の考え方ですが、例えば地震。地震は天災です。天災には労災が適用にならないのです。しかし、実際にはお金が出ます。政府労災がきいているのです。最近の風潮としては政府労災が認定しているのに、なぜ民間の労災が認められないのか。そういうふうに変化してきています。

通常のリスクに火災があります。火災の場合は火災保険がカバーします。建物の場合は出ます。什器備品の場合はちょっと難しくて、データの場合いくらくらいの価値があったかという判断があります。保険会社側がどういう風に認定するかという問題があります。損害保険は基本としては、凹んだものに対してフラットに補うというもの。データの価値ではなくて、復旧するまでのコストを補うということになろうかと思います。年間の利益、粗利を計算して火災保険でみるという商品もあります。

地震保険は入っている会社は少ないです。保険料が火災に比べて高いからです。企業になにかあった場合、必ず資金ショートの問題がつきまとってきます。例えば、スタッフがケガをしたという場合もそう。労災の判決がでて、支払うお金はどうするのか。銀行からは借りられません。そういった場合に役に立つのはすべて損害保険だと思います。

 

近年は心の病にも注意

建設業や製造業などはリクスも高いので、意識も高い。しかし、実はIT系の企業にも危険は潜んでいるのです。心の病いに陥るケースです。この分野の労災認定が近年、増えています。働き方の改革のもと残業など見直しの機運が増えていますが、実際どうなっているのか。メンタル面のケアはどうしているのか。

最近は、ほぼ遺族側は訴えてきます。裁判になります。うつ・過労死への可能性がある職種の場合は特に注意が必要です。

 


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